「あなたの強みはなんですか?」
この質問に、すらすら答えられる人は、どれくらいいるでしょうか。
ある日のコンサルティングの場で、クライアントにこの質問をしたことがあります。10年以上、同じ業界でやってきた方でした。しばらく沈黙が続いた後に出てきた言葉は「うーん、まあ、なんでもそこそこできる、ということでしょうか」というものでした。
この方が特別なわけではありません。「何のために仕事をしているんですか?」「今、一番大切にしていることはなんですか?」——どれも自分のことを問う質問でありながら、多くの方は答えに詰まります。自分のことはわかっているつもりでいる。しかし言葉にしようとすると、霧の中を手探りするような感覚になる。この体験を持つ方が、本当に多いのです。
なぜそうなるのか。そして、何が変わればよいのか。この問いに向き合い続けてきた結果として生まれたのが、「自己探究コンパス」というアプリです。今日は、このアプリを作るに至った経緯と、その背景にある考え方を書いておきたいと思います。
1. 燃え尽きていた、あの頃
かつて、私自身がそういう状態にありました。
コンサルタントとしてビジネスをやっていた。それなりの成果も出ていた。しかしどうしてもやる気にならない。朝起きると、仕事のことを考えるだけで重い気持ちになる。「何のために仕事をしているんだろう」という問いが、毎朝頭をよぎっていました。
傍から見れば、うまくいっている。数字もある。クライアントもいる。なのに内側は空っぽに近い感覚がある。今思えば、典型的な燃え尽きでした。ただ走り続けることに慣れすぎて、「なぜ走っているのか」を考える余裕がなかった。いや、正確には考えることを避けていたのかもしれません。答えが出なかったとき、怖かったから。
そこで「まず自分のことをよく知ることだ」という考えに行き着きました。外側を変える前に、内側を整える。成果を追う前に、自分が何者かを知る。探求を始めたのは、そういう経緯からでした。
2. 自己理解に、深さがある
探求を続ける中で、一つのことに気づきました。自己理解には、深さがあるということです。
表面には「行動」があります。毎日何をして、どう過ごしているか。どんな仕事をしていて、何が得意か。これは比較的見えやすく、自己紹介のときに出てくる情報は大体ここです。その下に「思考パターン」があります。何が気になって、何を無視するか。どんなときに動いて、どんなときに止まるか。意識すれば見えてくるが、普段は自動的に動いていてあまり気づかない層です。そしてさらに深いところに「価値観」があります。何のためにやっているか。何が揺るがせないか。何が満たされると、本当の意味で満たされるか。ここが一番深い層で、そして一番見えにくい。
多くの方は、表面の層だけで自分を語ろうとしています。「私はこういう人間です」という説明が、行動の羅列で終わっている。しかしその人の本当の輪郭は、もっと深いところにあるのです。そしてその深い層を掘り下げないまま走り続けると、やがて「なぜ走っているかわからない」という感覚に行き着く。私がかつてそうであったように。
3. ラベルではなく、問いとして
自己理解を深めるためのツールはいくつかあります。数秘術、MBTI、エニアグラム——それぞれに歴史があり、多くの人の内側を照らしてきた道具です。
ただし、これらを「診断」として使うと、どうしてもラベルを貼って終わりになります。「私はINFJです」「エニアグラムのタイプ4です」。それで何かがわかった気になる。しかし翌日の行動は変わらない。ツールの本当の役割は、ラベルではなく問いを生むことだと私は考えています。「あなたは直感で動く傾向がある」という結果が出たとき、大事なのはその先です。「それはどんな場面で?」「その直感は、どこから来ている?」「直感に従えなかったとき、何が起きていた?」——問いを深めるほど、自分の輪郭が少しずつはっきりしてくる。これが探求の本質だと、長年の実践を通じて確信するようになりました。
4. 探究講座で、起きたこと
その確信をもとに、「探究講座」という対面の場を続けてきました。参加者に問いを投げかけ、その答えをさらに深掘りし、また問いを重ねる。対話を通じて、参加者自身が自分の内側にあるものを言語化していくプロセスです。
ある日の講座で、印象的な出来事がありました。参加者の一人が、こう言いました。「私には利他の心がないと思っていました。自分が成功することや自分が幸せになることのためだけに生きていると思っていた」と。その方は長年、それをコンプレックスのようなものとして抱えていました。「人のために何かしたいという気持ちが自分にはない」という自己認識が、どこかで自分を責める材料になっていたのです。
ところが、対話を通じて深掘りしていくうちに、全く違う景色が見えてきました。「他人のために、いざという時に力になれるよう、力をつけて成功しなければならないんだ」という動機が、深いところにあることに気づいたのです。利他の心がないのではなかった。むしろ逆でした。他者への深い思いがあったからこそ、「まず自分が力をつけなければ」という形で行動に表れていた。長年、自分を責める材料にしていたものが、実は自分の強さの源泉だったと分かった瞬間でした。
こういった体験が、探究講座の中で何度も起きました。長年自分自身が抱えていたものの正体が分かる。どうしてこういう時にこういう反応をするのかが見えてくる。探求を通じて自分の輪郭がはっきりしていくと、人は変わります。行動が変わるのではなく、行動の意味が変わる。同じことをしていても、感覚が全く違うのです。
5. AIで、再現することへの挑戦
ただ、探求のプロセスには一つの課題がありました。対面の場でしか再現できなかったことです。
熟練したファシリテーターが場にいて、参加者の言葉を受け取り、適切な問いを返す。その繰り返しの中で深さが生まれる。これはマニュアル化が難しく、問いの深さと順序が命で、参加者の答えによって次の問いは変わります。型通りにやっても深さは生まれないため、ずっと対面の場でしか届けられませんでした。
ところが、AIの対話能力が大きく進化しました。文脈を読んで適切な問いを返す、参加者の言葉の裏にある感情に気づく、深さが足りなければ粘り強く問い直す——そういったことが、AIとの対話でも可能になってきたのです。「もしかしたら、探求のプロセスをAIで再現できるかもしれない」と思い、取り組んだのが自己探究コンパスの開発でした。数秘術・MBTI・エニアグラムを組み合わせ、対話を通じて自分の内側を掘り下げていく設計にしました。診断結果を出すのではなく、問いを重ねることで深さを作る。自由回答が浅い場合は問い直す。十分な深まりが得られたら、最後に「魂の二つ名」と「明日へのお守りのメッセージ」を届ける。
4月の探究講座で実際に使ってみると、参加者から大きな反応がありました。「対話の中で、自分でも気づいていなかったことが出てきた」「思っていたより深いところまで掘れた」という声をいただきました。講座の中だけにしておくのはもったいない——できるだけ多くの人に届けたい。それが、公開を決めた理由です。
おわりに
自己探究コンパスには、コースが2つあります。
「3問コース」は、まず自分の輪郭を確認してみたい方に。数問に答えると、暫定的なプロファイルが出てきます。「こんな傾向があるんだな」という気づきの入口として使えます。「8問コース」は、もっと深く探求したい方に向けて。前半の3問を経た後、さらに5問を重ねていきます。十分な深まりが得られると、最後に「魂の二つ名」と「明日へのお守りのメッセージ」が届きます。
強みを聞かれたときに、霧の中を手探りするのではなく、「ああ、これだ」と静かに指差せる言葉を持てるように。自分の動機の深いところを知った上で、軽やかに動けるように。そういう方に届けたいと思っています。
自分のことを、もう少し丁寧に知りたいと感じているなら、ぜひ一度、自分の輪郭を探しに行ってみてください。


