
「出会いの質」を、最大化するという思想
「マーケティングとは“売りつけ”ではない」
「それは、必要な人に、必要な価値を届けるための、最適な“出会い”を設計する営みだ」
前回までの記事で、私は自身のマーケティングに対する基本的な考え方をお話ししてきました。しかし、今回はそこから、さらにもう一歩、いや、もっと深く、私の仕事の核心にある思想について、言葉にしておきたいと思います。私が、クライアントの事業と向き合うとき、そして自分自身の探究を社会に届けるときに、常に心がけているアプローチ。私はそれを、“濃縮マーケティング”と名付けています。
■ “濃縮”とは、本質を「薄めない」という、静かで、しかし断固たる決意
現代のマーケティングの主流は、多くの場合、「とにかく分かりやすく」「できるだけ多くの人に届くように」「門戸を広く、薄く広げる」という考え方に重きを置いています。より広い層にアプローチするために、メッセージの角を取り、誰もが理解できるような、平均的な言葉へと変換していく。
しかし、私は、本当に価値のある「出会い」や、人の人生を変えるほどの「変容」を生み出すためには、そのアプローチは時に、本質を著しく損なう危険性を孕んでいる、と考えています。
- あなたが届けたい、複雑で、深遠なメッセージを、「誰にでも刺さる、キャッチーな言葉」に変換しすぎてはいないだろうか?
- あなたの持つ、言葉にならない情熱や、譲れない信念を、“当たり障りのない、無難な表現”へと、無意識のうちに丸めてしまってはいないだろうか?
こうした“薄める”という作業は、一見すると、より多くの人に届けるための賢明な戦略のように見えるかもしれません。しかし、それは同時に、あなたの価値の最も重要な核である“熱量”と“独自性”を失わせ、ありふれた情報へと変質させてしまう、マーケティングにおける「毒」にもなり得るのです。
■ 「本当に届けたい、たった一人」に、ごまかしなく届ける勇気
私が大切にしているのは、「この人だけには、この価値を、どうしても届けてあげたい」という、極めて個人的で、切実な情熱を、できる限り加工せず、その純度を高く保ったまま、直接的に届けることです。
- たとえ、すぐに多くの人から共感されなくてもいい。
- たとえ、爆発的には売れなくてもいい。
- しかし、“本当にそれを必要とし、その価値の深さを理解できる人”には、濃度100%のまま、一切のごまかしなく、その本質を届ける。
だからこそ、私が創るメッセージや、設計する講座は、時に「難しい」「抽象的だ」、あるいは“尖っている”と評されることがあるのかもしれません。しかし、私は、それでいいのだと確信しています。なぜなら、中途半端に薄められた価値には、もはや本物の魅力も、人の心を深く動かす力も、宿らないからです。
■ 体験の“密度”そのものを、緻密にデザインする
そして、「濃縮マーケティング」とは、単にメッセージを尖らせるということだけではありません。それは、商品やサービスそのものだけでなく、顧客が体験する時間の“密度”を、出会いの瞬間から、関係性が深まる未来まで、一貫してデザインしていくことでもあります。
- 購入前から、その人の内なる問いを刺激し、探求へと誘うような、小さなワークや問いかけを提供する。
- 講座やセッションの中では、単なる情報提供に留まらず、参加者同士の魂が触れ合い、予期せぬ“共鳴の瞬間”が生まれるような、安全で濃密な「場」を設計する。
- そして、購入後には、そこで得た気づきや変化を一過性のもので終わらせないために、持続的な学びや対話を支える“個別フォロー”や“探究共同体”といった、長期的な関係性の器を用意する。
ただ流れ作業のように商品を売って終わり、という関係性ではありません。一人ひとりの内側で、本質的な気づきや、納得感、そして確かな成功体験が生まれるための“濃密な体験の場”を創り出すこと。それこそが、「濃縮マーケティング」の、もう一つの本質なのです。
■ “数”という幻想よりも、“本質”という手応わりにこだわる
「薄く希釈して、多くの人に売る」という戦略よりも、
「深く、濃いままに、本当にその価値がわかる人とだけ、少数でもいいから深く、長くつながる」という戦略。
これこそが、私が考える、これからの時代のマーケティングのあり方であり、未来だと信じています。
もちろん、事業を継続していく上で、数や利益を完全に無視することはできません。しかし、“自分たちが、誰のために、そしてなぜこの活動をしているのか”という、その事業の魂を見失ってまで、規模を追い求めるつもりは、私にはありません。
■ 最後に:「濃縮された価値」は、それを求める人と、必ず出会う
「濃縮された価値」を、薄めることなく、そのままの純度で、誠実に届け続けること。
マーケティングとは、私にとって、“本物の出会い”を設計するための、極めて哲学的で、創造的な営みでもあるのです。
自分の仕事を、そして自分自身の人生を、
「その本質を、決して薄めずに、世界に伝え切るための、終わりなき挑戦」として捉え、これからも、その一歩一歩を、丁寧に積み重ねていきたいと考えています。
あなたのその「濃縮された価値」もまた、それを心から求める誰かと、必ず出会う時が来るはずです。