
■ はじめに:「売れているのに、なぜか苦しい」という感覚の正体
ある程度、事業は軌道に乗ってきた。
SNSのフォロワーも着実に増え、発信すれば反応もある。
提供している講座やサービスも、定員は埋まるようになった。
客観的に見れば、それは「成功」と呼べる状態なのかもしれません。しかし、その一方で、ふとした瞬間に、心の奥底から静かに顔を出す“説明のつかない違和感”や“満たされない感覚”。あなたにも、そんな経験はありませんか?
- なぜか、自分が発信する言葉が、以前よりも軽く、表面的に感じられてしまう。
- 売上数字は伸びているのに、以前のような心の底からの喜びや手応えが、薄れていく。
- 静かな夜中に、「本当に、これが私のやりたかったことなのだろうか?」という、根源的な問いが不意に浮かんでくる。
この、一見矛盾したように見える感覚——「うまくいっているはずなのに、どこか苦しい」という状態は、「自分自身の“内在的な価値観”や“本当にやりたいこと”と、ビジネスを成長させるために最適化された“外在的な仕組みや構造”との間に生じた、静かなズレ」によるものなのではないか、と私は考えています。
■ 「やりたいこと」が、いつの間にか「やるべきこと」に飲み込まれてしまう構造
ビジネスを成長させるためのマーケティングの知識やノウハウは、確かに有効です。それらを学び、実践することで、成果は出やすくなるでしょう。しかし、その「成果を出すための型」を繰り返し適用していくうちに、いつの間にか、“何のために、この活動をしているのか”という、最も大切な原点が見えなくなってしまう瞬間が訪れることがあります。
- コンバージョン率(成約率)を最大化するために、コピーライティングが本来伝えたかった本質から離れ、どんどん演出過多になっていく。
- エンゲージメントや「いいね!」の数を気にするあまり、自分が本当に発信したい「本音」よりも、瞬間的に“ウケる内容”や“期待されるキャラクター”を選び始めてしまう。
- 発信に対する反応が薄いと、提供している価値そのものではなく、まるで自分の存在ごと否定されたかのような落ち込みを感じ、さらに過剰なアピールに走ってしまう。
ここで、私はいつも自分自身に、そしてクライアントにも問いかけることがあります。
「その活動は、あなたの内側から湧き出る“本当にやりたいこと”であり続けていますか? それとも、いつの間にか、外部からの期待や数字へのプレッシャーに応えるための“何かを埋め合わせる手段”へと、すり替わってしまってはいませんか?」と。
■ 成果が出るほど、私たちは「構造の罠」に囚われやすくなる
皮肉なことに、ビジネスがまだ軌道に乗っていない、売れていない初期の段階では、私たちは比較的「自由に、自分らしく表現する」ことができていたのかもしれません。失うものが少ないからこそ、大胆に、本音で勝負できた。
しかし、一度売れ始め、成果が出始めると、私たちの心の中には、無意識のうちに「この成功を維持しなければならない」「期待を裏切ってはならない」という、現状維持への強いバイアスが働き始めます。
- お客様からのクレームやネガティブなフィードバックを過剰に恐れるあまり、以前のように自分の弱さや試行錯誤のプロセスを正直に出せなくなる。
- 高単価な商品やサービスに見合うようにと、等身大の自分ではない“理想化された自分像”を、無意識のうちに演じてしまう。
- 受講者や顧客からの「期待」を敏感に察知しすぎるあまり、本当に伝えたい核心的なメッセージよりも、耳障りの良い、当たり障りのない言葉を選んでしまう。
この状態が長く続くと、かつては情熱と喜びに満ちていたはずのビジネスが、いつの間にか“果たすべき義務”と“失敗への恐れからくる緊張”の塊のように感じられ、心の自由を奪っていくのです。
■ リスタートのススメ:「原点の問い」に立ち返ることこそが、すべての始まり
もしあなたが、今まさにこのような「マーケティング疲れ」や「成功の虚しさ」を感じているのだとしたら。その状態から抜け出し、ビジネスを再構築していくための最初のステップは、新しい商品開発でも、サービス設計の見直しでも、あるいは集客戦略の変更でもありません。それは、まず何よりも、「自分自身の内なる声に、もう一度深く問い直すこと」から始まるのです。
- 「私は本当は、誰の、どんな感情の痛みに寄り添い、どんな希望を届けたいと思って、この道を歩み始めたのだろうか?」
- 「そもそも、なぜ最初に、他の誰でもない私が、これをやろうと決めたのだったか? その時の純粋な動機は何だったのだろう?」
- 「今、具体的に何に疲れを感じているのだろう? 何がこんなにも私を苦しくさせているのだろう?」
- 「もし、売上や他者の評価を一切気にしなくて良いとしたら、私は本当は何を表現し、どんな活動をしたいのだろうか?」
これらの問いに、時間をかけて、誠実に、そして深く向き合ってみること。それが、“今の自分”と“かつて自分が立っていたはずの原点”との間に生じてしまったズレを、ありありと浮かび上がらせてくれるはずです。そして、そのズレに気づくことこそが、本当の意味でのリスタートの始まりなのです。
■ 結びに:売れているからこそ、自分に「問い直す勇気」を持つ
ビジネスがある程度軌道に乗り、安定した成果が出始めると、多くの人は「この現状を、苦労して手に入れたこの状態を、壊したくない」という気持ちが強くなります。それは自然な感情です。
しかし、私はあえてこう言いたいのです。
「本当の意味でビジネスや自分自身が“壊れてしまう”のは、売上が落ちることではなく、自分自身への内なる問いを持つことをやめてしまったときだ」と。
だからこそ、もしあなたが今、「売れているのに、どこか苦しい」と感じているのなら。それは、変化へのサインかもしれません。すべてを一度に手放す必要はありません。しかし、もう一度、自分自身の原点に立ち返り、心の声に耳を澄ませ、本当に共鳴できるものは何かを問い直すこと。それが、次なるステージへの、かけがえのない「再起点」となるはずです。
それは、これまで積み上げてきたものを全て否定し、やめるということではありません。
むしろ、これまでの経験や成果を土台としながら、“もう一度、自分自身が心から共鳴し、喜びを感じられるビジネスのあり方”を、主体的に取り戻していく、創造的な作業なのです。
その勇気ある一歩が、あなたを「マーケティング疲れ」のループから解放し、より本質的で、持続可能な充実感へと導いてくれるでしょう。