
■ はじめに:「何をすれば?」の前に、「なぜ、それをしたいのか?」
「何か新しいことを始めたい。自分のビジネスを立ち上げてみたい。けれど、一体何から手をつければいいのか、皆目見当がつかない…」
これは、新しい一歩を踏み出そうとする多くの人が、最初に直面する、切実で大きな問いではないでしょうか。実際、世の中には様々なアドバイスが溢れています。
「まずはSNSで発信を始めよう」
「ブログを毎日更新して、コンテンツを蓄積しよう」
「とにかく行動あるのみ。動きながら考えよう」
これらのアドバイスも、もちろん一理あります。しかし、私がこれまでの自身の経験や、多くの方々の探究の場に立ち会う中で感じてきたのは、そうした具体的な「行動」よりも前に、もっと本質的で、見過ごされがちな“最初の問い”が存在するということです。
それは、「あなたは、どのような“内なるエネルギー”や“心の状態”から、その新しい一歩を踏み出そうとしているのですか?」という、自分自身の内面への問いかけです。
■ スタート地点のエネルギー:「焦り」や「比較」か、それとも「誠実な願い」か
ビジネスをゼロから立ち上げようとするとき、私たちの心を動かすエネルギーには、実は様々な種類があります。そして、そのスタート地点のエネルギーの質が、その後の道のりや、得られる結果の質を大きく左右すると、私は感じています。
例えば、こんなエネルギーから動き出そうとしていないでしょうか。
- 「周りも何か新しいことを始めているのに、自分だけが取り残されているような気がする」(焦り)
- 「あの人はあんなに稼いでいるのに、自分はまだ何も成し遂げていない」(他者との比較、劣等感)
- 「とにかく早く成果を出さなければ、この状況は変わらないし、意味がない」(結果への執着)
もちろん、こうした感情が行動のきっかけになること自体を、私は否定しません。しかし、もしその根底にあるのが、こうした「欠乏感」や「恐れ」に基づいたエネルギーであるならば、その旅は途中で必ず息切れし、燃え尽きてしまう可能性が高いのです。なぜなら、そのエネルギーは、他者や外部の状況によって容易に揺らぎ、消耗してしまうからです。
だからこそ、私はまず、こう問いかけることをお勧めします。「その活動は、あなたの心の底から“本当にやりたいこと”なのでしょうか? それとも、何か別の満たされない想いや、見たくない現実を“埋め合わせるための手段”になってはいないでしょうか?」と。
■ 私が考える、「ゼロから始める」ときの、本質的な3つのステップ
では、焦りや比較ではなく、より本質的で、持続可能なエネルギーからビジネスを始めるためには、具体的にどのようなステップを踏めば良いのでしょうか。私が大切にしているのは、以下の3つの内なる探究です。
ステップ①:「誰の、どんな“満たされない想い”や“社会の違和感”に、あなたは心を動かされているのか?」を深く見つめる
すべての創造的なビジネスや価値あるサービスの出発点は、実は、個人的な体験からくる“違和感”や、時に“静かな怒り”、そして「こうであったらいいのに」という切実な“願い”の中にあるのではないか、と私は考えています。
「なぜ、この分野では表面的な情報ばかりが溢れていて、もっと本質的な対話や深い学びの機会がないのだろう?」
「なぜ、多くの人は、他者の期待や社会の“普通”という見えない圧力に縛られ、自分らしい生き方を選べずに苦しんでいるのだろう?」
「私自身が過去に経験した、あの苦しみや孤独感を、今まさに感じている人がいるのではないか? その人たちのために、私にできることはないだろうか?」
こうした、あなた自身の心が捉えた「世界の綻び」や「満たされない誰かの想い」に対する、深い共感や問題意識。それこそが、あなたが本当に提供したい価値の、かけがえのない源泉となるのです。
ステップ②:「他の誰でもない、“今の自分だからこそ言える言葉、差し出せる価値”とは何か?」を探す
「何をするか」という具体的な事業内容や商品設計よりも先に、「あなたは、どのような“スタンス”で、どのような“存在”として、その価値を提供していくのか」が問われる。それが、私が考えるビジネスの出発点です。
- あなた自身が、これまでの人生で深く傷つき、悩み、それでも乗り越えてきた経験から得た、生きた言葉。
- 誰にも真似できない、あなただけのユニークな視点や、過去に必死で通り抜けてきたプロセスそのもの。
- 他人にはなかなか語れないかもしれないけれど、あなたにとっては譲れない「本音」や「信念」。
この、あなた自身の人生と深く結びついた“揺るぎない立ち位置”のようなものが見えてきたとき、初めて、あなたの言葉は力を持ち、提供するサービスは独自の輝きを放ち、自然と形になっていくのではないでしょうか。
ステップ③:「まずは、小さく言葉にしてみる。そして、信頼できる誰かに、そっと届けてみる」
いきなり完璧な商品やサービスを作り上げようとする必要はありません。壮大な事業計画も、最初は不要です。
私がゼロから何かを始める時に、まず最も大切にしているのは、ステップ①と②で見えてきた「想いの源泉」や「自分ならではの価値」を、“ごく小さな言葉の塊”として表現してみることです。
- まずは、誰に見せるわけでもなく、自分自身のノートに、その想いを自由に書き出してみる。
- 次に、少し勇気を出して、ブログやSNSといったオープンな場で、断片的でもいいから発信してみる。
- そして、信頼できる友人や、あなたの想いに共鳴してくれそうな、たった一人の誰かに、その言葉を直接話してみる。
この「小さく言葉にし、小さく届けてみる」という行為は、単なる“テストマーケティング”というだけでなく、「自分自身の内なる情熱が、本当にどこに向かっているのか、何と響き合うのかを、確かめ続けるための、かけがえのない探究のプロセス」そのものでもあるのです。
■ ビジネスとは、“あなたの在り方”が、社会と出会い、響き合っていくプロセス
私が考えるビジネスとは、単に「お金を稼ぐための手段」ではありません。それはむしろ、“あなた自身のユニークな在り方や価値観が、他者や社会と出会い、繋がり、そして共に新しい価値を創造していく、生きたプロセス”なのだと捉えています。
だからこそ、ゼロから何か新しいことを始めようとするときには、市場調査や競合分析、あるいは商品開発といった外的な活動よりも先に、まず「自分自身の内側との、深く誠実な対話」こそが必要不可欠なのです。
■ 結びに:「始める」とは、何かを“作り出す”ことではなく、まず“内なる意志を見つける”こと
まだ何も具体的な形になっていなくても、大丈夫です。
サービスの名前や、キャッチーなコンセプトが決まっていなくても、全く問題ありません。
すぐにそれがお金に繋がらなくても、焦る必要はありません。
でも、もしあなたの心の中に、
「私は、こういう世界があったらいいと、心の底から願っている」
「この価値を、誰かに届けたいと、切に思っている」
その、小さくても確かな一言が、静かに生まれたのなら——。
そこが、あなたの、そして誰にも真似できない、
本当の意味での「ビジネスの始まり」なのだと、私は信じています。