揺らぎの中で「意志」を支える3つの土台 〜身体・環境・対話で“選び続ける力”を育む〜

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■ はじめに:意志は“根性”だけでは、脆く、続かない

「これからは、自分の意志で生きるのだ」——そう決意しても、私たちの心は、日々の出来事や内なる感情によって、容易に揺れ動きます。それが人間という存在の自然な姿なのでしょう。

前回お話ししたように、「揺れること」自体は、私たちが本気で人生と向き合っている証でもあります。しかし、その揺らぎの中で、当初の「意志」を見失い、元の慣れ親しんだ脚本へと安易に引き戻されてしまっては、変容への歩みは止まってしまいます。

私たちはときに、「もっと意志を強く持たなければ」「精神力で乗り越えなければ」と、自分自身を“根性論”で奮い立たせようとします。しかし、私がこれまでの探求と実践を通して痛感してきたのは、意志を持続させるためには、精神力以上に、それを支えるための具体的な“構造”や“土台”が必要であるということです。

どれだけ大切だと信じている選択であっても、日々の感情の波に呑まれたり、忙しさや外部からのノイズに飲み込まれたりすれば、私たちの意志はあっけなくブレてしまうものです。

だからこそ重要なのは、意識的に「意志を支える3つの土台」を、私たちの日常の中に用意し、丁寧にメンテナンスしていくことだと、私は考えています。

  • 「身体」:思考よりも先に反応し、内なる状態を教えてくれる、最も正直なセンサー。
  • 「環境」:私たちの思考や感情を、目に見えない形で左右する、心の土壌。
  • 「対話」:自身の本音に触れ、揺らぎの中で意志を再確認し強化する、“言葉によるチューニング”。

これら3つの土台がバランスよく整ってこそ、私たちは困難な状況の中でも自分を見失わず、「選び続ける力」を育んでいくことができるのではないでしょうか。

1|「身体」——内なる声を聞く、“最も誠実なセンサー”に立ち返る

「意志」を強く意識し、頭で考えすぎる状態が続くと、私たちはしばしば、自分自身の「身体」が発している微細なサインを聞き逃してしまいがちです。しかし、「何かおかしい」「これは違う気がする」といった違和感は、多くの場合、思考よりも先に身体が察知していると、私は実感しています。身体は、嘘をつけないのです。

だからこそ、意識的に「身体の感覚」に注意を向けることは、揺らぎの中で自分自身を見失わず、選択の精度を高めるための、重要な第一歩となります。

おすすめの習慣例:

  • 朝、目覚めたら、まず足の裏全体で床を感じながら立つ時間を数秒持つ。それだけで、一日の始まりに自分自身の“重心”を取り戻す感覚が得られます。
  • 思考が散漫になったり、感情が高ぶったりしたときに、呼吸に10秒だけ意識を向ける。これは、思考のループから抜け出すための、簡単なリセットスイッチになります。
  • ふとした瞬間に、「肩や背中がこわばっている」ことに気づけるようになる。それは、無意識の怒りや緊張、あるいは何かに対する防衛反応の兆候かもしれません。気づくことで、対処が可能になります。

身体は、私たちを常に「いま、ここ」という現実のアンカーポイントへと引き戻してくれます。意志が揺らぎそうになったとき、思考だけで解決しようとする前に、まず「いま、私の身体は何を感じているだろう?」と、その声に耳を澄ませてみることです。

2|「環境」——思考と感情の質は、“身を置く場”によって大きく左右される

私たちがどのような意志を持ち、どのような選択ができるかは、個人の精神的な強さだけに依存するものではありません。むしろ、“私たちがどのような場所で、どのような情報に触れ、どのような空気の中に身を置いているか”という「環境」によって、大きく左右されるものなのです。

  • 物理的な環境の整理:例えば、乱雑に散らかった机の上は、私たちの内面の混乱と、驚くほどリンクしていることがあります。思考をクリアにするために、まず身の回りを整えることは有効です。
  • 情報の取捨選択(断捨離):絶えず流れ込んでくるSNSのノイズや、他者との比較を煽るような情報は、私たちの判断力を鈍らせ、不要な焦燥感を増幅させます。意識的に情報源を断つ、あるいは選ぶ勇気も必要です。
  • “戻れる安全基地”の確保:心が疲れたとき、判断に迷ったときに、一人になって静かに考え直したり、安心できる感覚を取り戻したりできる場所を、意識的に確保しておきましょう。それは、お気に入りのカフェの一席かもしれませんし、日記を広げる静かな机かもしれません。心地よい音楽や、信頼できる誰かとの穏やかな対話空間そのものである場合もあるでしょう。

私はよく、「意志が弱いのではない。ただ、疲れた心を回復させ、自分自身と向き合える“安全な場”を持っていないだけなのかもしれない」とお伝えすることがあります。環境を意識的に整えることは、他でもない「自分自身との信頼関係」を丁寧に築き直し、意志を支えるための、最も効果的で優しいアプローチの一つなのです。

3|「対話」——“言葉にする”プロセスが、意志に輪郭を与える

私たちが「本当に選びたいこと」や「大切にしたい価値観」は、最初から明確な形で存在しているわけではないことの方が多いでしょう。むしろ、自分自身と、あるいは信頼できる他者と「対話」する中で、書き出したり、語り合ったりするプロセスを通して、少しずつその輪郭が明らかになっていくものです。

だからこそ、意志を持ち続け、それを確かなものにしていくためには、「ひとりで静かに内省する時間」と、「それを誰かと共有し、言葉を交わす時間」の、両方が不可欠となります。

  • 日記やノートに、日々の気づきや感情の揺れ、「何が本当に大事だったのか?」という問いを書き出すことで、自分自身との対話を深める。
  • 正解やアドバイスを求めるのではなく、ただ自分の思いや迷いを正直に話せる相手と、結論を急がない「オープンダイアローグ」的な対話の時間を持つ。
  • 探究講座のような場で、信頼できる仲間たちと、それぞれの“心の揺れ”や探求のプロセスを共有し、互いのとなりながら学び合う。

私自身、これらの「対話」のプロセスを、自らの活動の中心に据え、非常に重視しています。言葉にするたびに、自分の中にあったはずなのに見えていなかった“内なる軸”のようなものが、ふっと浮かび上がり、確かな手触りを持つようになるのです。このプロセス自体が、揺らぎの中で意志を絶えず更新し、メンテナンスしていく力となります。

■ 意志的選択とは、日々の「今日も、自分とつながる」という行為

何か人生を賭けたような、劇的な決断だけが“意志的な選択”ではありません。むしろ、日々の生活の中にこそ、私たちの意志は試され、そして鍛えられています。

  • 体調が優れないことに気づいたら、「頑張らなければ」ではなく、「今日は無理せず休む」という選択をする。
  • 自分の本音が言えない、あるいは尊重されないと感じる環境から、勇気を出して一歩距離を置く選択をする。
  • 相手との間に誤解や怖れがあっても、すぐに諦めるのではなく、「もう一度だけ、対話を試みよう」と選択する。

こうした一つひとつの“静かで、しかし確かな選択”こそが、私たちが「真の自己」と繋がり続け、自分らしい人生を歩んでいくための、具体的な実践なのです。

■ 結びに:選び続ける自分でいるために、今日できること

私たちの人生を本当に変えるのは、一発逆転の劇的な決断というよりも、むしろ、「日々繰り返される、小さな意志ある習慣」の地道な積み重ねなのかもしれません。

朝、自分の身体の感覚に少しだけ意識を向けてみる。

夜、一日を振り返り、心をざわつかせた情報から少し距離を置いてみる。

週に一度、自分の考えや感情をノートに書き出してみる。

その一つひとつが、揺らぎやすい私たちを支え、主体的な選択を可能にする“内なるしなやかさ”を着実に育てていきます。

この機会に、「本当の自分が、これから選びたいことは何だろうか?」と、ご自身の内側に静かに問いかけ、その声を丁寧に聞いてあげてみてはいかがでしょうか?

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