
■ はじめに:感情で繋がる関係から、意志で築く関係へ
前回は、「真の自己」とは感情にただ流されるのではなく、「意志」をもって選択できる存在なのではないか、というお話をしました。無意識の脚本から自由になり、自身の内なる声に耳を澄ませ、主体的に「こう在りたい」と選び始める——。
しかし、この内なる変化は、必然的に私たちの人間関係にも静かな、しかし確かな影響を及ぼし始めます。
これまで私たちが無意識のうちに築いてきた関係性の多くは、「感情の反応」に基づいていたのかもしれません。
- なんとなく気が合うから、一緒にいる。
- 不安だから、相手に確認や保証を求めてしまう。
- 寂しいという感情に突き動かされて、誰かと繋がろうとする。
- 怒りを感じたから、反射的に距離を置いてしまう。
これらはごく自然な心の動きです。しかし、「真の自己」と繋がり、感情に気づきながらも「意志」で行動を選び始めると、こうした感情ベースの関係性に、ふと違和感を覚えたり、これまでとは違う関わり方を模索し始めたりする瞬間が増えてくるのではないでしょうか。
なぜなら、あなたの選択の基準が、「その瞬間の感情を満たすこと」から、「長期的な信頼や、互いの成長に繋がる在り方」へと、少しずつシフトしていくからです。
■ 意志でつながる関係は、「答え」よりも「問い」を大切にする
私が探究講座や日々の対話の中で、繰り返しお伝えしてきたことがあります。それは、「信頼とは、“すぐに互いを完全に理解できること”ではない。むしろ、“それでもなお、相手を理解したいと願い、問い続ける姿勢”そのものなのではないか」ということです。
感情の反応で繋がりやすい関係は、共感や同調がある時は心地よくても、意見の食い違いや誤解が生じたときに、脆さを見せることがあります。「分かってくれないなら、もういい」と、対話が途絶えてしまいがちなのです。
一方で、「意志」で繋がることを意識した関係性は、たとえ不安や疑念、意見の対立があったとしても、すぐに結論を出したり、関係性を断ち切ったりせずに、“共に問い続ける姿勢”を大切にします。
「あの人にとって、この出来事はどんな意味を持っていたのだろうか?」
「なぜ、自分はあの瞬間、あのような強い感情を抱いたのだろうか?」
「この関係性において、私たちが本当に求めているものは、一体なんだろう?」
これらの問いに対して、性急に「正解」を求めようとせず、時には答えが出ないまま、ただ静かにその問いを持ち続けること、そして対話を諦めないこと。それこそが、うわべだけではない、深い信頼関係を育むための、豊かで粘り強い土壌となるのです。
■ 「意志」で選ぶ道には、時に「孤独」や「摩擦」も伴う
感情の反応や、周りの期待に合わせて生きていた頃は、ある意味で「楽」だったかもしれません。周囲との同調を優先することで、波風を立てずに済んだ場面もあったでしょう。
しかし、自分の内なる声に耳を澄まし、「意志」に基づいて選択をし始めると、時には周囲との間に“ズレ”や“摩擦”が生まれることもあります。
「なぜ、あなたはそんなに難しく考えるの?」
「もっと、周りに合わせた方が楽なのに」
「なんだか、前とは変わってしまったね」
そんな言葉を投げかけられ、一時的に「孤独」を感じる瞬間もあるかもしれません。これまで心地よかったはずの繋がりが、急に色褪せて見えることもあるでしょう。
このとき、私たちが思い出すべき大切な視点があると、私は考えています。それは、「それでもなお、自分自身の意志で選び続けることには、深い意味がある」ということです。なぜなら、その選択は、単に一つの行動を選ぶということだけでなく、「自分は、誰と、どのような質(関係性)で繋がっていきたいのか」という、人生における関わり方を本質的に選び直しているプロセスでもあるからです。
“つながり方”が変われば、“自然とつながる相手”も変わっていく。それは、変化と成長に伴う、自然なプロセスなのです。
■ それでも、あるいは、それだからこそ出会える「魂で共鳴する人」
古い脚本を手放し、新しい自分の在り方を生きようとするとき。孤独や摩擦を感じる一方で、必ずと言っていいほど、新たな出会いが訪れます。それは、「言葉や理屈ではなく、あなたのその在り方、その姿勢に、静かに共鳴してくれる人」との出会いです。
- あなたが答えを急がず、問い続けている姿を、尊重してくれる人。
- あなたが自身の弱さや葛藤を正直に語ったとき、それを安易にジャッジせず、ただ静かに受け止めてくれる人。
- そして、その人自身もまた、同じように自分の内面と向き合い、格闘しながら、それでも前に進もうとしている人。
こうした出会いは、単なる偶然ではありません。それは、あなたが勇気をもって「真の自己」を生き始めたからこそ、自然と引き寄せられるようになった、かけがえのない「縁」なのです。数は少なくなるかもしれません。しかし、その繋がりは、以前よりもずっと深く、本質的で、あなたの魂を力づけてくれるものとなるでしょう。
■ 結びに:意志ある選択の積み重ねが、人生の質を形づくる
最終的に、私たちの人生の質、その豊かさや深みというものは——
「日々押し寄せる感情の波に、どれだけ流されずに、自分自身の『意志』に基づいた選択を、誠実に積み重ねていくことができたか」
によって、大きく左右されるのかもしれません。
たとえ怖くても、新しい一歩を踏み出した、あの日の選択。
たとえ孤独を感じても、自分自身の内なる声に正直であろうとした、あの瞬間の選択。
たとえ揺れ動きながらも、相手との対話を諦めずに続けた、あの時間の選択。
それらはすべて、目には見えなくとも、あなたという人間の輪郭をくっきりと描き出し、人生に深みを与える、かけがえのない“意志の軌跡”です。
あなたは今日、日常の小さな場面で、どんな「意志ある選択」をしますか?
その一つひとつの選択が、あなたの人間関係を、そしてあなたの人生そのものを、静かに、しかし確実に、変えていくのです。