
■ はじめに:「やるべきこと」に追われて、心が置いてきぼりになっていませんか?
目の前には、たくさんの「やるべきこと」。
タスクリストを消化することに、日々追われている感覚。
「これを達成しなければ」「あれも終わらせなければ」…
そんな思考に忙殺される中で、ふと、
「私は、本当は何を大切にしたいのだろう?」
という、心の奥底からの静かな声を聞き逃してはいないでしょうか。
多くの人が行動の起点とする「やるべきこと(ToDo)」ですが、もしかしたら、それが時として私たちを疲れさせ、本当に進みたい方向から遠ざけてしまう原因になっているのかもしれません。
今回は、「やるべきこと」から始めるのではなく、まず自分自身の「本当に大切にしたいこと(ニーズ)」に深く繋がり、そこから自然な行動を生み出していくためのアプローチについて、NVC(非暴力コミュニケーション)や内省のヒントを交えながら探究してみたいと思います。
1|なぜ「やるべきこと」だけでは、心が動かないのか?
効率的にタスクをこなすことは、ビジネスや日々の生活において重要です。しかし、「やるべきこと」リストが、自分の内なる感情や本当に満たしたい欲求とズレているとき、私たちはエネルギーを失い、行動が鈍ってしまうことがあります。
それは、頭(思考)だけで進もうとして、心(感情・ニーズ)が置いてきぼりになっている状態、と言えるかもしれません。論理的には正しくても、心が「イエス」と言っていなければ、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなもので、前進するのは困難です。
私なりに表現するならば、
「外から与えられた『べき論』の声が大きすぎて、『私が本当に求めているものは何だろう?』という、自分自身の魂の声が聞こえなくなっている状態」ということになります。
2|NVC:「感情」を手がかりに「本当に大切にしたいこと(ニーズ)」を見つける
では、どうすれば自分の「本当に大切にしたいこと」=「ニーズ」に気づくことができるのでしょうか。その強力なツールとなるのが、NVC(非暴力コミュニケーション)の考え方です。
NVCでは、私たちの「感情」は、「ニーズ」が満たされているか、満たされていないかを教えてくれる大切なサインだと捉えます。
- 心地よい感情(喜び、安らぎ、ワクワクなど)は、多くの場合、ニーズが満たされていることの現れです。
- 心地よくない感情(怒り、悲しみ、不安、焦りなど)は、多くの場合、何らかのニーズが満たされていないことの現れです。
つまり、自分の感情に丁寧に意識を向けることで、その奥にある「今、私が本当に大切にしたいこと(ニーズ)」を発見する手がかりが得られるのです。
3|「私のニーズは何?」3分間・感情からのニーズ発見ワーク
これは、日々の忙しさの中で見失いがちな「自分のニーズ」と再び繋がるための、簡単な内省ワークです。毎朝、あるいは心がザワついた時に、3分間だけ試してみてください。
- 今の感情を一語で特定する: 今、どんな感情を最も強く感じていますか?(例:焦り、モヤモヤ、嬉しい、穏やか…)
- その感情の背景を探る: その感情は、どんな出来事や思考に関連していますか?
- 満たされていない/満たされているニーズを探る:
もし心地よくない感情なら:「この感情は、どんな『大切にしたいこと(ニーズ)』が満たされていないと教えてくれているのだろう?」(例: 焦り→安心、貢献、効率 / モヤモヤ→明確さ、繋がり)
もし心地よい感情なら:「この感情は、どんな『大切にしたいこと(ニーズ)』が満たされていることから来ているのだろう?」(例: 嬉しい→繋がり、承認 / 穏やか→調和、安全) - ニーズを言葉にする: 見つけたニーズを「私はいま、〇〇(安心、繋がりなど)を大切にしたいと感じている」という形で、シンプルに言葉にしてみましょう。
このワークを通して、自分の行動の源泉となる「ニーズ」に意識的に繋がることができます。
4|ニーズから始める行動設計:「リクエスト」という次の一歩
自分の「本当に大切にしたいこと(ニーズ)」が明確になったら、次はそのニーズを満たすための具体的な行動を考えます。NVCではこれを「リクエスト」と呼びます。
大切なのは、「~しなければならない」という義務感から行動を決めるのではなく、「このニーズを満たすために、今できる具体的な一歩は何だろう?」と、ニーズを起点にして行動を発想することです。
例えば、「安心」というニーズが見つかったなら、「今日は焦らず、まずは一つの作業に集中する時間を作ろう」といったリクエストが生まれるかもしれません。「繋がり」が大切だと感じたなら、「午後に、信頼できる同僚に少し話を聞いてもらえないかお願いしてみよう」となるかもしれません。
ニーズから生まれた行動は、内発的な動機に支えられているため、無理がなく、自然とエネルギーが湧いてくることが多いのです。
5|ケーススタディ:「伴走」というニーズが私を動かした日
以前、私が停滞していたプロジェクトがありました。「やるべきこと」は分かっているのに、手が動かない。その時、自分の感情(焦り)を探っていくと、「一人で抱え込まず、誰かと一緒に考えたい」という「協力」や「共感的な伴走」へのニーズが見えてきました。
そのニーズから生まれたリクエストは、「明日、チームメンバーに30分だけ壁打ちをお願いする」という小さな行動でした。しかし、その一歩が、滞っていたエネルギーを再び流し、プロジェクトを前進させる大きな力となったのです。「やるべきこと」だけを見ていた時には見えなかった道が、ニーズと繋がることで開けました。
6|まとめ:「ToDoリスト」の前に、「Need to Be(どう在りたいか、何を大切にしたいか)」を
行動が滞る時、それは単なる怠慢ではなく、「本当に大切にしたいこと」から心が離れてしまっているサインなのかもしれません。
日々の「やるべきこと」リストに取り組む前に、少しだけ立ち止まって、自分の内なる声、感情、そしてその奥にある「ニーズ」に耳を澄ませてみませんか?
探究のための問い:「私が今、この瞬間に、最も大切にしたいと感じていることは何だろう?」
この問いと繋がり続けることが、無理なく、自分らしく、そして持続的に行動し続けるための、最も確かな羅針盤となるはずです。