
■ はじめに:ふと気づけば、「伝えようとしている」私
どうも私は、「伝えようとする」人間のようです。あるとき、ふと気づきました。
- 誰かに対して、何かを一生懸命に説明している。
- 心で感じたことや学んだことを、自分なりの言葉に置き換え、分かち合おうとしている。
- 自分が受け取った大切な“何か”を、ただ自分の内だけに留めておくのではなく、「誰かに届けたい」と自然に願っている。
- これは、最初から「誰かに教えよう」と意気込んで始めたわけではありません。計画したわけでも、義務感からでもない。けれど、気がつけば私は、伝えようとしていた。言葉を紡ごうとしていたのです。
これを“使命”と呼ぶのは、少し大げさかもしれません。しかし、「そういう自分が確かに存在する」という事実は、無視できない、ある種の“輪郭”をもって私の前に立ち現れてくるように感じます。なぜ、私は伝えようとするのでしょうか?
■ 「伝える」とは、単なるスキルを超えた営み
一般的に「伝える力」というと、説明の明瞭さや、話の論理的な構成力といった、技術的な側面が注目されがちです。もちろん、それらも大切な要素でしょう。
しかし、私がより本質的だと感じるのは、その技術の根底にある「なぜ、私はそれを伝えたいのか?」という内なる動機、あるいは“願い”のようなものです。
- その情報や考え方に、深く心を動かされたから。
- かつての自分の人生を、確かに変えてくれた言葉や概念だったから。
- これを知れば、今まさに悩んでいる誰かが、きっと一歩前に進めるはずだと信じているから。
そのように、“感情を伴う起点”があるからこそ、「伝える」という行為には深みが生まれ、人の心に響く力が宿るのではないでしょうか。だから私は、「伝える」という一見シンプルな営みの中にこそ、人間的な豊かさや美しさ、そしてどこか“役割”や“天命”に通じるような尊さが秘められているように思うのです。
■ 私が「伝える」役割を選び取ってきたのかもしれない理由
これまでの人生を振り返ってみると、私は無意識のうちに、しばしば「代弁者」のような役割を担ってきた気がします。
- 誰かが抱えているけれど、うまく言葉にできない想いや考えを、代わりに言語化して返すこと。
- その場の言葉にならない空気や、沈黙の中に流れる感情を、まるで翻訳するように言葉にして示すこと。
- 講座やセッションの場で、私が発した言葉に対して、「ああ、それこそが、私がずっと感じていたことでした」と、相手の腑に落ちる瞬間が訪れること。
これらは、単なる偶然の出来事ではなかったのかもしれません。もしかすると、私の中に内在する「伝えたい」「言語化したい」という衝動が、自然な形で表に出て、他者との関係性の中でそのような役割を果たそうとしていた証なのかもしれない、と感じています。
■ 伝えられる力は、ひとつの「役割」を引き受けること
言葉を通じて、何かを伝えられる力があるということ。
誰かの心に、自分の言葉を届けられる可能性があるということ。
それは、単に個人的なスキルや才能というだけでなく、その言葉が持つ世界観や価値観を受け取り、それを必要としている誰かへと運ぶための“器”や“通路”としての役割を、知らず知らずのうちに引き受けているということなのかもしれません。
そう考えると、伝える力は、個人的な所有物というよりも、むしろ社会や共同体から一時的に「預かっている」ようなもの、とも言えるのではないでしょうか。
だからこそ私は、近年、このように思うようになりました。
「もし私に伝えられる何かがあるのなら、それを出し惜しみせず、伝えていこう」
「その力を、そしてその役割を授かった自分自身を、謙虚に、しかし責任をもって引き受けよう」と。
■ おわりに:あなたの中にもあるかもしれない、“伝える役割”
もし、これを読んでくださっているあなたが——
- 気づくと、つい人に何かを説明したり、教えたりしていることがある。
- 心の中に、言葉にして誰かに届けたくなるような、熱い想いや大切な気づきがある。
- 誰かから「あなたの話を聞いて、すごくよく分かりました」「なんだか、すっきりしました」と言われた経験がある。
——そんなささやかな経験をお持ちなら、あなたの中にも“伝える側”としての役割が、静かに息づいているのかもしれません。
最初から完璧にまとめようとしなくても良いのです。
洗練された、非の打ちどころのない表現である必要もありません。
それでもなお、「これを、誰かに伝えたい」と心が動いたとき、その純粋な感情は、すでに“小さな、しかし尊い使命”として、あなたの中で輝き始めているのです。
どうか、臆することなく、あなたの言葉で伝えてみてください。
その言葉を、その想いを、きっとどこかで待っている人がいます。
そして、伝えるという行為そのものが、あなた自身の探究をさらに深めてくれるはずです。