
■ はじめに:「なぜか、心が動く空間」の不思議
論理だけでは説明できない。明確な言葉にするのも難しい。けれど、私たちの心が確かに感じ取るものがあります。
例えば、ある場所に足を踏み入れた瞬間、ふっと肩の力が抜け、「あ、この空気、なんだか好きだな」と、心が静かにほどけていくような感覚。
そこには、目新しいノウハウも、声高な主張も、きらびやかな演出もないかもしれません。それでも、なぜか「ここに、もう少し身を置いていたい」と思える。
私は、ビジネスやコミュニティにおいて、このような“場の気配”とも呼べる、繊細で捉えがたいものを、深く信じ、大切にしています。
■ 数値で測れない「何か」に、本当の価値を見出すということ
ビジネスの世界では常に、「成果は出るのか」「売上は上がるのか」「スケール(拡張)は可能か」といった、測定可能な指標が問い続けられます。それは当然のことでしょう。
しかし私は、それらの問いよりも先に、自分自身にこう問いかけたいのです。
「私は、この空間に、心から『いたい』と思えるだろうか?」
「この人たちとの繋がりや関係性を、丁寧に『育てていきたい』と感じるだろうか?」
もし、これらの問いに対する答えが、曇りなく「YES」であるならば、そこから始まるビジネスやプロジェクトは、たとえ静かであっても、揺るぎない強さを秘めているように思います。
なぜなら、目先の「売れる・売れない」という結果よりも先に、人と人との間に“共鳴し合う空気”、心地よい波動のようなものが、すでに確かに立ち上がっているからです。
■ 共鳴の土壌となる、「言葉以前の信頼」
私が主宰する濃縮塾の探究講座、あるいは日々のクライアントとの対話の中で、繰り返し目の当たりにしてきたことがあります。それは、巧みな論理や説得ではなく、その人の「存在そのものの響き」から、静かに、しかし深く「信頼」が生まれる瞬間です。
そのような信頼が育まれる場には、いくつかの共通点があるように感じます。
ありのままの自分を演じることなく、自然体でいられると感じられる安心感。言葉を発する前から「きっと、この人(たち)は私の話を真剣に聴いてくれるだろう」と予感できる受容的な雰囲気。時には、言葉にならない沈黙の時間すら、なぜか心地よく感じられる深いつながり。
この“言葉以前の信頼”という、目には見えないけれど確かな土壌があるからこそ、ビジネス上の提案も、新しい企画も、あるいは少し勇気のいるフィードバックさえも、相手の心に自然と届き、受け入れられていくのではないでしょうか。
■ 「好きだな」と感じる感覚は、あなたの「美意識」の現れ
「この空気感が好き」「この雰囲気が心地よい」——そういった感覚は、単なる個人の好き嫌いの話に留まりません。それは、あなたが無意識のうちに大切にしている“在り方”や“価値観”、いわばあなた自身の「美意識」が反映されたものだと、私は考えています。
- どのような言葉遣いや対話のあり方に、あなたは安心感を覚えるでしょうか?
- どのような静けさや沈黙に、あなたは「美しい」と感じるでしょうか?
- どのような人との関わり方を、あなたは「信頼に足る」と感じるでしょうか?
これらの感覚的な問いへの答えは、実は、ビジネスにおける重要な“選択基準”にもなり得るのです。なぜなら、あなたが「美しい」「心地よい」と感じる在り方こそが、あなたが最も自然体で価値を発揮できる状態を示唆しているからです。
だからこそ、私は時折、こんな風に問い直してみたいのです。
「あなたのビジネスは、あなた自身の美意識に照らして、どのような“空気感”を生み出しているでしょうか?」
■ おわりに:場を“設計”する前に、まず“育てる”という視点
その場の熱量や空気感といったものは、KPIなどの数値で測ることはできません。しかし、それは確実に、人と人との新たな繋がりを生み出し、未来の信頼や、ひいては健やかな売上をも育む、豊かで大切な“土壌”となります。
私は今でも、そしてこれからも、日々の活動の中で、静かに「場の気配」に意識を向け、観察しながら、誰かとともに深く呼吸し合えるような、そんな空間を探し、育んでいきたいと考えています。
それは、短期的に「売れる」ためではありません。「共に在る」ためです。それは、規模を「拡大する」ためではありません。「深まり」のためです。
そして今日もまた、ふとした瞬間に訪れる「あ、この空気、好きだな」と感じられる、その小さな、しかし確かな感覚から、私のビジネスを始めていきたいのです。そこにこそ、持続可能で、心から納得できる価値が眠っていると信じています。